狂乱の解熱劇2007/06/12 23:56

発熱は、ベッドのきしむ音を耳から遠ざけ、
耳の向こうに、招かざる様々な妖怪共を御招待。

洞窟の中から吠える数千の野獣は、
肌を刺すような潮騒の音で大合唱し始め、
嫌った頭を振れども、振れども、
更に聞こえて来るは、足場の悪い茨の湿地を進む、
泥塑人達の汚濁を踏み潰すかの様な歩音。
吹き出る汗は背中を時速数百メートルで擦り落ち、
落ちる汗に引きずられる意識は、
最後の軸足をアイゼンで食い縛っていた事も忘れ、
容易く奈落に落ちるだけでは気も済まず、
速さを増しては、暗く深い海の奥底まで沈みこむ。

もうどれだけそこに居るのか、
ゴツゴツした地底の岩肌にもて遊ばれた魂の正義は、
滴る血で全身を真っ赤にしながらも、
ギラギラした意識だけは決して失わず、
ただ、荒波のパルス音が耳鳴りにとって変わって、
体の内部から聴覚を刺激し続ける。
背中の汗は全身に回り、
普段は意識の無い膝の裏やくるぶしの周りまでも、
旋回しながらやがては首筋のリンパ線に従って、
笑いながら逆流している様子だ。

目の奥は眩し過ぎ、瞑った暗闇の遥か遠くから、
音を出して差し込む光は、目眩がするほどだ。
光に色が見えるなら、この光は薄紫色に違いなく、
病んだ魂を浄化させる気か、はたまた成仏させる勢いか。
リンパと水球でも戯れていたであろう大量の汗は、
次第に体温に取って代わり、カラダを拭おうとする。
体の熱さえ感じなかった亡者の竜宮城から一転、
擦れる真綿達までも、耳に優しく囁き始めだすと、
目を明けられるのか、否か、
眩い光が善か悪かの正体も見破る時間も与えぬ間に、
新しい時間は天使と共に枕元に舞い降りた。

戦力を失った虚ろな眼差しで薄目を開いてみれば、
天空の光を十分に分け与えられた天窓からの光は、
神の賜物か、それとも後光か、
喉の奥から飛び出た邪気を笑顔で見送る余裕も持ち、
見事に生還したした事を白いシーツを掴みながら実感。
長い夜、長い獣達との宴席に最後まで付き合った、
生粋の仕切りや根性に、ビタミン剤で乾杯だ。

もう大丈夫、熱は下がったのです。
熱だけでしたから安心です。
いつもより少し長く寝たら、
こんな魑魅魍魎な夢を見続けたのでした。
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