巨匠2007/04/30 23:49

巨匠ロストロポーヴィッチが亡くなりました。
勿論知り合いではないのだが、
彼の能力を目の当たりにした事を思い出したので、
忘れないよう記しておこうかと思います。

ベルリンに住んでいる頃の早期の記憶ですから、
1990年だと思うのですが、
Berlin Phil.の定期にロストロ(通称)登場です。
毎回、世界中の名だたる巨匠から、
コンクール1等賞を引っ下げやってくる新人、
伝説の指揮者と、話題には事欠かない公演ですが、
この日は、特別な夜でした。

何せ、彼は3曲の協奏曲を弾くのです。
1曲目コレルリ、2曲目シュニトケ、
そして休憩を挟んでドヴォルザークです。
指揮は小澤さんでしたが、何せまだ若き小澤さん、
ベルリンフィルとの戦いは面白いものでした。
この話しは逸れますので、またですが・・・

毎日、フィルハーモニー(Berlin Phil.本拠地)で、
練習したり、遊んだり(?)、酒飲んだり(??)
していた私は、99%のリハーサルを聴きました。
毎回、指揮者に感心したり、勉強になったり、
演奏者に唸ったり、ソリストに萌えたりと、
夜の演奏会よりも昼のリハーサルを見る事が、
有意義且つ、贅沢な練習だったのですね。
しかし、恐ろしい事に、「最高」も慣れてくると、
素晴らしさも想像の内という感動中枢麻痺で、
舞台で何が起こっても、そう簡単には、
身の毛がよだったり、毛穴が開いたりは、
しなくなっていました。

しかしこの演奏会、いやリハーサルは、
ロストロの偉大さを目の当たりにし、
演奏家を止めようと思うくらいのショック。
脳内アドレナリン分泌量は、1000mgに
達していたくらいの興奮です・・・。
最初のリハーサルの日から、どんどん進みますから、
一度通しておいて、問題点を取り出しての練習は、
Berlin Philの通常のやり方です。
ロストロは、コレルリなんて勿論暗譜です。
音楽を戻してリハーサルするときでも、
隅々まで頭に自分の音楽が入っていますし、
オケの伴奏も頭に入っていますから、
チョチョイのパーで、なんて事無いのです。
それから、リハはシュニトケ作品に移りました。
余談ですが、シュニトケは当時存命で、
Berlin Phil.も定期で何度も取り上げましたし、
何度も会場で見ましたが、、、やはり凄い変人。
ロストロにはそんな事は、関係ありません。
彼は、演奏しながら始終オケを振り返ります。
問題が生ずると、小澤さんが発言する前に、
あらゆる楽器に指示を出します。
それは小節数、しかも練習番号まで間違えなく。
そして、音の間違えも指摘しながら、
じゃ、「何小節目から!」と、矢張り覚えています。

あまり御存知無い方多いかもしれませんが、
シュニトケ作品は、どの曲もそれは大変です。
勿論協奏曲のソロもですが、伴奏のオケも難曲です。
そんな伴奏パートを、全部覚えているのです。
「ホルンの3番!」とか、オーボエ2番!」とか
いいながら、しかも小節数まで・・・。
この協奏曲第2番はロストロを想定して書かれ、
彼は勿論熟知しているのでしょう。
しかし、このリハーサルは恐ろしかった。
一切譜面見ないのですからね。

サボってはいけませんね。
彼の才能に追いつけなくても、
ロストロだって苦悩し苦労しながら怠る事無く、
演奏家人生を進んだのですから。
時代に翻弄されながらも、
自分を信じて進んだ巨匠がまたひとり去りました。

合掌です。
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