カルマス賛 カルマス誤算2006/02/21 22:44

音楽関係者の間では重宝している楽譜出版社に、
Kalmus<カルマス>というアメリカの会社があるのですが、
ここの譜面とても重宝ですが、いい加減なものも多く、
オーダー自体が大博打です。

どこが重宝って、例えばある日オケの譜面セットがなくて、
「参ったなぁ・・ 火曜日だろリハ・・・」
と、金曜日の夜に思ったとする。
とてもじゃないが、探すのも、
見つけて送ってもらっても、国内でギリギリ。
ところが、そんな時カルマス社のカタログで
チェックをして、フロリダにFax.で注文すると、
金曜日の朝出勤してきたMr.ライブラリアンは、
すぐに処理をして午前中に国際便で送ってくれる。
すると、最短で中2日、月曜日に手元に届くのです。
「あ~ さっすがカルマス!速い、安い!・・だぜ」
と、パート譜のチェックも間々ならぬうちに、
火曜はリハ。

「げげ!!なんだよ、この譜面・・・カットされた所が、
黒く塗ったまま、印刷されてんじゃん!よ~!」
と、金管楽器の諸氏。日欧米共通して血の気多いのだ。
「あ、、そこカットじゃないんだよな・・・」と、私。
カルマスは、平気で、どこかの劇場の古い譜面とかを、
勝手に(だろう多分)拾ってきて(すまないカルマス!)、
そのままコピーの様に印刷して出版する、
なんてことは日常茶飯事なのです。
「は~ 速い!安い!・・・上手くないんだな・・」
と、何度も喜んだり、泣いたりと、長いお付き合い。

私は年間通じて、やたら譜面を頼むので、
いつの間にか安くしてくれて、国内大手楽譜屋さんより、
安い事もしばしばある。
しかし、ギャンブル性が高いのだ。
だが、楽譜マニアの私としては、楽しいところでもある。
まぁ、笑顔で許してあげるのだ、カルマスなんだから。

ところが、時に恐ろしく素晴らしい事もある。
3月に、NBAバレエ団で、新たに「白鳥の湖」をやるため、
セットでパートを頼んだら、スコアは、チャイコフスキーの
原点版がついてきた。立派なもので、
クリティカル・エディション(研究版)の体である。
「まぁ、どうせパートも同じだろうから、
NBA版に合わせて切り貼りして譜面作らないと・・・」
と思い、優秀なM本隊員と打ち合わせして作業の手順。

今回はちょっと前のスコッティシュ・バレエ版の演出と同じ
なので、参考ビデオを見ると、やはり挿入曲がふんだん。

・・・知らない方の為にちょっと解説すると、
1875年に初演された「白鳥の湖」は、あまり人気がなく、
約20年間、上演機会も多くなく放っておかれた。
そして、プティパ&イワノフという、方々の尽力によって、
1895年に大幅に作りかえられた時に、
当時バレエ作品でも活躍していたドリゴという作曲家に、
収拾のつかなくなった部分を補足改訂してもらったり、
チャイコフスキーの他の曲をアレンジして挿入したり、
音楽家にとっては、『アイタタタタ・・・』な事を、
たくさんしてもらい、これが大当たりで、
現在もベースは、どこの公演でもこの版である。

と、まぁ、こんな経緯があるので、
「どうしよう挿入改訂部分のパート譜」・・・
と悩んで数週間。
ある日、パート譜パラパラめくっていたら、箱の底から、
なにやら怪しげなパート譜・・
「ん?Supplement・・・ 美容と健康か、、、」
と、思ったら、、、
なんと、ちゃんと改訂された部分や、挿入曲は、
一式別に入っているじゃありませんか!

「偉いぞ!カルマス! だからお前を好きなんだ!」
悩みも飛び、膨大な編曲の仕事からも解放され、私は叫ぶ。
ホントは見難いし、間違え多そうな相変わらずの譜面なのに、
不器用な恋人のおでこを人差し指で エイ!と突くように、
『こらっ!まったくぅ!』
と言って、パート譜を抱きしめた。
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