Fantastic2006/02/17 23:59

思い出すことがありました。


2004年12月3日・・・

私は、教えている大学生とのレッスンが終わった後、
いつもの居酒屋で飲んでいた。
午後11時過ぎに、突然1通のメール
「やったー!ついに完成したぞ!!!!!!!!!」
それは義父の作曲家三木稔からの携帯メール。
70も過ぎた御大がビックリマーク10個、
しかし、
私はそれを見た瞬間、涙が溢れてとまりませんでした。
居酒屋なのに、大学生の前なのに、
涙は止め処もなく流れてきました。

30年間にも亘って、連作の作品を書き続けるのは
どんな心境なのでしょう。
前に誰も歩いていない道を、たったひとりで、
30年も歩く事が出来るのでしょうか。
演奏家は仲間がいます。
作った人を悪く言い、己の非は隠します。
あるものを脚色して、よもや自分のモノにします。
しかし、何もないところから、
振り返っても誰もついて来ない道を、先ず進み、
蒔いても芽を出すか解らない種を蒔き続ける。
そんな前人未到を30年も誰が続けられましょうか。
長い長い道のりを歩いて、ひとつの大きな門を
くぐるまでの事を考えたら、泣けてきました。

日本の歴史に沿った作品を書いてきたわけです。
1000年前のオペラ「源氏物語」19世紀の「春琴抄」、、
その最期に残った時代が8世紀、
遣唐使が唐の国に渡り、多くの流通をしていた時代。
日本は既に国際社会であり、多くの国々との
関係により、開かれた日本を形成していた時代です。
寂聴さんの台本は、
仏教、唐と日本、大変素晴らしい原案を与え、
作曲家のインスピレーションを掻き立てたのでしょう。

でも音にしていくのは大変ですね。
こんな3年以上の作業が全て終わったら、
30年続けていた作品が仕上がったら、
ビックリマーク10個つきますね。


2006年2月17日・・・

三木稔作曲 瀬戸内寂聴台本 オペラ「愛怨」<AI-EN>
の世界初演です。
1997年の開場以来、新国立劇場は、
4つのオペラを日本人作曲家に委嘱してきました。
全て入魂の一作でしょう、だれもが、
全てをつぎ込んで作ったのでしょう。
でも、 でも、 今日の作品は素晴らしい。
関係者が言うことほど恥ずかしいものはないが、
日本のオペラ上演史と、日本人作曲家のオペラ作品の
歴史を見渡しても、全てが記念すべき日かも知れない。
悪いが、他の方にはこれは書けない。

観ていない方に、
観て来たドラマを説明するほど難しい事はなく、
聴いてもいない人に、
三木音楽の素晴らしさを知らせるのも難しい。
どうやって説明しよう・・・・

やめよう。

ただ、素晴らしいのです。
何が素晴らしいかは、私に連絡して聞いてくれ。

でも何か伝えたいとすれば、こんな事を
思いました。

日本人でよかったと思ったこと。
音楽家でよかったこと。
劇場を愛しているという事。



写真は、「愛怨」の譜面の一部。
あ・い・え・ん と歌うには、音符が必要です。
こうやって、ひとつずつ書いていくのです。
こうやって数千ページ。数万数十万の音符が並び、
ようやく楽譜です。
不思議だね、誰かが考えて初めて音楽になるんだから。
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