妄想カラオケ2008/03/18 23:30

M大オケの金管打楽器コンサート。
第20回だったのです。
出演の学生達には、「へ~20回、ふ~ん」だろうが、
こちらにとっては、そんな簡単な感嘆ではなく、
「なるほど20回!そうだね20回!フムフム・・・」
と、かなり感慨深き回数なのである。
単純に言ってしまえば、
私が20年以上も教えているという事なのであるが、
第1回目を思い出すと目頭が熱くなるものの、
第1回のヤツラを思い出すと、頭に血が上る。
・・・そのくらい、大変だったという比喩である。

そもそも、オケ好きの学生などと言うものは、
始終オーケストラのメロディー吹いて満足し、
どんなに音程悪くても、考え方が間違っていても、
吹いている本人の頭の中には、ベルリンフィルや、
ウィーンフィルの音が同時に鳴り響いているのである。
つまり、妄想と幻聴のミックスされたカラオケの中で、
気持ちよく演奏(と言えるのか)をしている状態である。
しかしこんな吹き方しているだけでは、上手くなるわけない。
なんとか、上手くなるために必要な練習や考え方を、
日夜頭をひねりながら考え、事あるごと丁寧に説いたが、
結局は練習後の酒の洪水に押し流されて、
素敵な練習方法の記憶などは、忘却の彼方へ水没した。
当時、ほぼ学生らと同じ年の私は、
金管全体を管理する唯一のトレーナーであり、
立派な前任の故S氏が多忙になったため、
同じ苗字と、酒が飲めるのを見込まれて(ウソ!)、
送り込まれたのであるが、
なんとか報いたいと一所懸命やっていたのである。
(勿論今だって誰よりも真面目にやっているのだ)
そこで一大奮起をして、私は居酒屋で声を上げた。
「金管コンサートやろう!!」
あたりは静まり返り、学生の失笑すら聞こえてくる・・。
また、単なる飲みノリで歌い始める前に、再度叫ぶ。
「金管コンサートやるぞ!コラてめーらボケ!!」
日頃上品な僕が、「ボケ」まで言ったか定かではないが、
こうして第1回目の火蓋はパックリ切られたのである。

練習はM大試験と重なり、場所の確保からして大変。
某母校、東京にある国立芸術風大学に全員で参上し、
ほっかむりをして、抜き足で講義室に忍んだものだ。
そこまでは成功しヤレヤレなのだが、困った。
音出せば、他の音大生とは違うのは一目瞭然。
最初から、上手に演奏しないとバレてしまうのである。
なんども通い、上手な演奏で練習を重ねるも、
なにせ、何故アンサンブルをやる必要があるのか
解って居ないのだから、困りものだし、
その上、たいして吹けていないのだから、
完全にお手上げなのである。

そうこうしながらも、
辛い練習後の酒は、皆で飲むとさらに美味い事も覚え、
アンアンブルの意味と、大切さを身体で体験しながら、
なんとか発表できるところまで漕ぎ着いたのだ。
公演は、お世話になっている某坂の上の素敵な教会。
しかし・・
各曲のタイトルとは完全に関係ない衣裳だし、
アンサンブルを夜覚えたからって、
公演前に酒飲む奴もいるし・・。
ど、どなっているのだ、、と絶句しながら公演は終了。

その日から数えて、20数年。
そのころ生まれた学生達が舞台に立っている。
しっかりウォームアップをして調子を整えたりして、
酒飲んで演奏する奴も居ないし、
素晴らしいマナーで、姿だけなら音大生の身のこなしで、
羽目外して叫んだり、踊ったりする奴もいない。
決して否定できない演奏で、熱き情熱もぶつけて、
耳を塞ぎ逃げたくなる様な演奏も皆無である。
椅子、譜面台のセッティングに見かねて、
私が急遽手伝うようなこともなく、
素晴らしいオケ内スタッフに信頼を置いている。

20年という年月は凄いのです。
勿論、今ではトレーナーも4人いますし、
各楽器の学生数も多くなり、競争も激しく、
レベルはどんどん向上している気が、、、少しする。
全てがハチャメチャな20年前も楽しかったし、
今はそれが無いのが寂しいと思いながら、
とても時代に合った進化を遂げていると思う。
20年の間に自分も変わっていきました。
外国に住み、表現方法は楽器から棒になり、
人間関係も、悩める内容も変わりました。
状況も変わり、何もかも変わったような気がして、
この変化を思うと怖くなる時もあるのですが、
このM大の様に変わらないヤツラとの付き合い、
音楽を真ん中にして、車座で演奏して酒飲んで、
笑って怒って泣いて受容して・・。
こんな変わらぬモノがあるから、人は毎日を過ごせる。
変化を余儀なくされる毎日、予想もつかない明日だが、
不動と言うモノがどんなにありがたいものなのか、
あらためて考えさせられる日になりました。

いやいや演奏が上手かったから考えたわけではないよ。
演奏している姿を見ていたら、
記憶妄想が広がって、音の決して聴こえない、
美化されたキラキラの過去を発見したのです。
と、関係者を戒めておいて終ろうかな・・。
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