こうもり終演しました2018/10/06 08:48

お陰様で4〜5日の2日間の
横浜シティオペラ オペレッタ<こうもり>
終演いたしました。

神奈川県民の小ホール
アイゼンシュタインの家庭も、
オルロフスキーの邸宅にも
素敵なパイプオルガンがあるような
見事な舞台背景ですが、
オペレッタとは時代や環境に縁もない、
というより精神は対極にあるような
美しく神々しいオルガンが、
この舞台美術を見守ってくださっていますね。

豪華絢爛に設えられた舞台装置に慣れた
西洋式大劇場を良しとする方には、
物足りないのかもしれませんが、
本来日本人は派手に飾るより引き算で
質を素朴に表す民族ですので、
この徹底排除したこの舞台は
私はとても居心地が良かった。

もちろん稽古初めから
そのような舞台演出になることは
わかっていましたし、
演出に加えて予算や時間など、
様々な制限からこうなったわけですが、
私は大歓迎でした。

芝居は様々な要因に助けられます。
小道具、衣裳、ヘアメイク然りです。
服を着て化粧することは
私生活の個人から役に徹するには、
必要な最小限の装備と武器かもしれません。
ハロウィーンなどがそうであるように、
仮装した人の目の前の光景は
渋谷のセンター街でもイベントホールの
大展示場でもないのですね。
見せているのは扮したキャラクターが存在する
仮想の世界であるわけです。

衣裳を身に纏い一歩舞台に出た時から、
役は実在の個人から脱皮して、
芝居の一役として変身するわけですね。
それで必要にして十分。
あとは舞台美術も街の背景も、
ましてや時間や季節までも
存在するのはお客様の頭の中。
そこを表現するのが舞台人の絶対であり、
そしてそれこそ難儀な芸の積み重ねです。

落語が好きで昔から時間を見つけては
寄席に足しげく通いますが、
噺家ほどこの芸に卓越した方はないと思うのです。

「扇子と手拭い」

2つだけです。
私が好きなのは地味な色合いの着物で
少し血色が悪いくらいの噺家。
話し出して引き込まれると、
途端に江戸の街を歩く彼を追っかけ、
蕎麦を啜り、酒を飲む彼の前に居て、
頷きながら話に耳を傾けます。

華飾も装飾もなく、質素であればあるほど
本質のみで勝負する本来の演目を楽しめる
世界があるものですので、

今回の私のテーマは原点回帰なのでした。

7月の終わりから
稽古にたくさん通わせて頂きました。
当たり前ですが指揮者は最初から
準備を終えて整えておくので、
春から様々過去の資料から譜面を見直したり、
ハプスブルクの時代を読み返したり、
シュトラウス一家を何度も訪問するほど
Ⅱ世のお父さんや息子の素性まで
戸籍を調べてみたり・・・

自分自信が「こうもり博士」かと思うほど
この作品の周辺を調べた事がなんどもあり、
そして悲しい事には次第に忘却の彼方なので、
今回も紐解きながら準備するのは楽しかった。

オーケストラであるのが本来ですが、
ピアノを聴きながらオケの音を想像し、
オーボエの嘆きの旋律や、グランカッサの
地を揺らす低音を思い起こすのは愉悦です。
こうもりをよく知るお客様はきっとそうして
こうもりの世界を再現したくださったと
信じておりますし、
これも質素として私の担当使命でもありました。

終演した事に反省や後悔もしないので、
聴き返すこともほぼしないのですが、
多少のハプニングや予想外のビックリも
オペレッタの常と思っています。
噂話、文春やフライデーの代わりに
創作されたのがオペレッタが担った役目でもあり、
混沌とした可笑しさは本番でさえも大切。

本質は人間の心理を見せること。

これを読み取るために他の9割の部分は
演出していると思うのがオペレッタ。
歌から芝居から、そして所作からも、
心理が見えていれば最高に傑作なのが
オペレッタの楽しさです。

質素な舞台でも必ず必要なスタッフが
舞台芸術にはたくさんいます。
子供に服を着せて学校に送り出す親の様に
舞台に歌手を送り出してくださる彼らは、
時に厳しくしかし何時もやさしく
お客様に対する敬意、舞台に対する拘りは
出演者、演奏者より何倍も強いのものです。

そんな全ての関係者に感謝をしています。
下支えをしてくださったスタッフに
改めて感謝をしております。
ありがとうございました。

A組終演3分後
いいですね!
舞台でもこんな楽しい顔はできない。
達成感と多少の悔しさ、しかし安堵の表情。

B組終演3分後
主要キャストを2組に分けての公演、
後から出る組はそれはそれで大変
でもやはり充実した朗らかな表情。

本番ピアニスト服部さんと
ソプラノで理事長の柳澤さん

自分の日常から脱皮して毎日過ごしていたので
終演翌日にはヘロヘロでしたが、
筋肉痛の様に心地良いものでもあります。
オペレッタの難しさと自分の未熟さも感じ、
それでも舞台が好きな事も認識いたしました。

最後になりますが、最も身近であった
ピアニストに副指揮の音楽スタッフ、
そして稽古から終演まであらゆるフォローを
恙無く真摯に行ってくださった制作方に
心より感謝申し上げます。









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