ミカド拝観2016/03/15 23:26

 喜歌劇「ミカド」を観させていただきました。実は大変興味深く、そして何気なく楽しみに待っていた公演。

 1885年の英国初演から数年後の旅一座の来日時に、タイトル故に時の明治政府井上馨外務大臣から「待った」が掛かり、タイトルを変更しての日本初演。昭和は戦後のGHQ接収のアーニーパーイル劇場での日本人初演公演から、1970年代までの長門美保歌劇団の十八番公演・・・。
 この喜歌劇「ミカド」ほど本来の屈託のない笑いに溢れた喜歌劇と裏腹に、波乱万丈の上演史を記録する歌劇はないのです。

 東京音大の声楽専攻学生若手を中心とした、学校内の公演ながら、男女各6名の合唱に、弦楽五重奏、ピアノ、打楽器という室内管弦楽編成も誂えての構成。机もある大きい講義室ながら、真摯に取り組む彼らの姿勢が目に入り、開場時から大変好感持てました。
 英国のGilbert&Sullivan という作曲家と作家のペアは、類まれな能力に長けた二人であり、英語圏でこの作品を知らぬ者はなしというほどの有名作品。しかしながら、日本を知らぬ英国人がロンドン万博などをきっかけにジャポニズム流行りに乗せて創作した作品ゆえ、世界中での大当たりは良かったが、日本での上演は些か難しいものなのです・・・。

 公演に対する批判は何もないのですが、正直に言って仕舞えばオトナ歌劇界の課題と同じく、演劇的な手法をほぼ持ち合わせていない若手オペラ歌手による芝居ほど大変なものはない。これは多分上演していた彼らが長い稽古中に最も痛感したことでしょうね。歌劇とは芝居という分母の上に成り立つ音楽劇であるというはとても大事なことなのです。
 予算も少ないながら、道具、衣装、ヘアメイクなども色々とうまく処理をしていましたし、勉強と研究により始めて見るお客様は大いに楽しんだと思います。
 台本、歌詞もオリジナルを用意し、その点においても非常にやる気を持って、長い間用意をしたんだなぁと、感心しながら見ていました。

 10年前の話・・・

 Gilbert&Sullivan Festival から私たちの喜歌劇「ミカド」は招聘され、私がプロデュースと指揮をして、歌手スタッフ総勢40数名で英国に渡りました。非常に稀有な体験でありましたし、日本人初の英国ミカドプロジェクトとして、現地では非常に興味を持たれました。今では信じてもらえないかもしれませんが、1000人入る劇場は早々にSold Outになり、当日券を求める群衆に、止む無く隣りの300人収容できる小劇場に有料で(!)入れて、大劇場の様子を同時映像でスクリーンで見せたという、ワールドカップの様な盛り上がり。お陰で地方紙ながら年間最優秀エンターテイメント賞をも受賞した次第。
 この海外公演の6年も前からミカド上演を経て携わっていた私は、この頃すでに粉々に疲弊しており、帰国から半年後の東京芸術劇場での最後のミカド5日連続公演以降、精神状態はほぼ崩壊にまでなったのも、今だから話せる話です。

 この2006年時の上演はそれまで日本人のミカド上演を見たことなかった英国人はじめ、世界中のミカドファンにとっては、度肝を抜いたらしく、現地で見られなかった方も、劇場横で公演1間後(!)に即販売されるDVDによって、私たちはいたるところで研究されていました。
 着物を着ると着付けから鬘(カツラ)が大変ゆえ、ベテランのヘアメイク、衣装、演出の先生方が編み出してくださった的確且つ見劣りなし、もっといえば本当にそれでも良い歴史認識をしてしまいそうな「着崩し」衣装により、大変合理的な舞台設定にできました。可笑しいのは、その後のどの公演を見ても、ミカドを安価(失礼)に上演するチームは、真似をしているのです・・・。ううむ、これは正式ではないのに、、、と思いながら、お手本にしていただいている事に誇りも持てますね。

 本日のミカドも大分私たちのプロジェクトの研究をした様子です。門外不出、、というか、ありえない振り付けまで面白そうな事は、手本にしてくれているところがたくさんありました。これはとっても嬉しい事。苦労して稽古したがゆえに、若い方々が工夫をして改定してくだされば、これまた面白いわけです。
 譜面や原作台本はすぐに手に入るのに、上演回数も少なくなかなか取り組んでもらえない喜歌劇「ミカド」ですが、こうやって真面目に取り組んでいる音大生の姿を見ると、ただただ応援したくなりますね。まだまだやりたいない事や、数年経って再演の気持ちがフツフツと湧いてくださったら、また見に行きたいです。

 とってもブラボー・プロジェクトでした。

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